昨日までの元気はどうしたんですか?
あんなに楽しそうな笑顔はどこへいったんですか?
さっきまでの青空は、いつの間にか大粒の涙を流していた。
痕跡 第12話【2人の契約】
「あのね、私が記憶を思い出した時の事覚えてる?和と一緒に寝ちゃってたでしょ?」
「うん。」
は小さな声で、ゆっくりと話した。
その声はとても弱々しくて、俺はと繋いだ手に少し力が入った。
「私ね、あの時、夢を見たの。」
「夢?」
「うん。真っ白な所にいたの、私。何にも無い所だったんだけど、だんだん男の人の後姿が見えてきてね、」
「・・・」
俺はが危なかったときに見た夢を思い出した。
「和だって思った。」
「俺?」
「うん、きっと。そしたら、知らない男の人の声が聞こえてきたの。」
「・・・声・・・?」
俺は自分の鼓動がどんどん速くなるのを感じた。
―――真っ白な世界
―――男の声
(その声、俺も聞いた・・・?)
「その男の人がね、私に、言ったの。“記憶が欲しいか?”って。」
「・・・うん。」
「“欲しい”って言ったら、元の生死を彷徨う体になるぞー、みたいなこと、言われちゃった。」
は冗談を言うようにあははっと小さく笑った。
「、もしかして・・・!?」
「“それでもいいです”って、言った。」
「何でそんなこと!!」
俺もそいつと話した。
のように契約もした。
「だって、和との記憶なしで生きるなんて、私には、出来ないよ・・・」
の目からは大粒の涙が流れていった。
「今までの記憶なんか無くたって、生きていればまた新しい記憶がいくらでも作れるのに・・・!!」
今俺が意識を失えば、またあの男と取引ができるのなら、喜んで頭をぶつけるなり睡眠薬を飲むなりするのに。
そんな都合よく取引が出来るはずがない。
俺は自分の無力さに腹がたった。
「でもね、私、最後にお願いしたの。」
「お願い?」
「“1日だけ時間を下さい”って。」
「・・・それで昨日、時間がないって・・・?」
「うん。」
「・・・」
は名残惜しそうに、繋いだ手の指を絡ませた。
「秘密にしてて、ごめんね。」
「・・・俺もに秘密があるんだ・・・。」
「え?」
俺はあの日の夢の事を話した。
と同じ真っ白な世界であの男の声聞いたことを。
そして、男と交わした契約のことも。
「じゃぁ、私が今、生きてるのって、和の、おかげなんだね。」
「・・・」
「和が、その契約をしてなかったら、私、誰にもさよならできないまま、死んじゃうとこだった。」
「・・・」
「昨日、デートすることも、出来なかった。」
の声はどんどん小さく弱々しくなり、俺の大好きな笑顔で、声で、そっと呟いた。
“ありがとう。愛してる。”
そして目を瞑り、涙を流した。
「・・・?!」
さっきまで俺の手を握り返していたの手から力が抜けていった。
さっきまでの激しい雨はすぐに止んで、また元の青空に戻っていた。
地面には雨に取り残された水溜りがひとつ。
雨と一緒に消えることを許されない水溜りは、まるで俺みたいだった。
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再び短い(笑)
wrote : 2006.9.24
UP : 2007.3.7