懐かしい、この気持ち。
こんなに大切な、大きな気持ちを忘れていたなんて。
心が満たされていく。
―――でも、時間がない。
痕跡 第9話【タイムリミット】
「和っ!!私思い出した!!」
「えっ!?」
和は目を丸くして、そして満面の笑みで笑ってくれた。
私も笑った。
でも涙が心の奥底から溢れてくる。
「和・・・」
「・・・」
私たちは子供のように泣きじゃくった。
そして、お互いの存在を確かめるように強く、強く抱き合った。
「あ!!!今何時!?」
「え?8時半ですけど・・・?」
8時半。
朝日はもうとっくに昇っていて、今日は珍しく晴天だった。
タイムリミットは24時間。
明日の今。
それまでに私がやりたいこと・・・
最後にもう一度だけ。
「和、デートしよう。」
「え?今からですか?」
「うん。」
「でも、まだ体が・・・」
「時間が無いの・・・」
「え?」
「詳しく説明してる時間はないの。」
私はお母さんと先生を説得して、外出の許可をもらった。
意外と簡単に許可が降りたのは、私の体がもうほぼ完治していた証拠。
この体なら1日思いっきり動くことができそう。
***
「じゃぁ行こうか。」
「うん。」
和は私に左手を差し出した。
私はその手をしっかりと握り締め、久しぶりの外の世界へ足を踏み出した。
左からは太陽の温もりを感じ、右からは和の温もりを感じながら歩いた。
「どこいっこか?」
「どこでもいいよ。」
私たちは普通のデートをした。
買い物をしたり、ご飯を食べたり、映画を見たり。
とてもこれが“最後のデート”だなんて感じさせないくらい。
その中で、いつも以上に和の優しさの1つ1つが心に沁みた。
ドアを開けてくれたり、車道のほうを歩いてくれたり、私に合わせてゆっくり歩いてくれたり。
もうこの優しさを感じられるのも最後なんだと思うと、いちいち涙が出そうになった。
「ねぇ、海行こうよ。」
「海?」
「うん。あの海。」
「あの海かぁ。久しぶりですね。」
私たちは初めてのデートで行った海へ向かった。
もうタイムリミットは半分を過ぎていた。
海までの道、私たちは無言のまま手を繋いで歩いた。
ホントはもっといろんなことを話したかったけど、もう何を話していいかもわからなくなった。
そして何より、口をあけたら涙が出ちゃうんじゃないかと心配だった。
頭の上でチラホラ光る星がとても綺麗だった。
「わぁ懐かしいなぁ。」
私たちはあの時と変わることの無い浜辺に着いた。
海は黒くて、何処までも続いている。
もう少ししたら私はきっとこの海に飲まれてしまうんだ。
今まで折角我慢してきた涙が頬を流れた。
和はそんな私を優しく抱きしめてくれた。
「。」
「和・・・私、離れたくないよ・・・」
「離れないよ。俺はずっとの傍にいるから。」
「和・・・」
「なぁ。が退院したら2人で一緒に暮らしませんか?」
「え?」
「そしたら少しでも一緒にいられるでしょ?」
「・・・うん。」
「じゃぁ約束。」
そこで私たちはキスをした。
きっと和にとっては誓いのキス。
でも私にとっては“ごめんなさい”のキス。
守れない約束をしてごめんね。
和は知らない。
私の命の短さを。
静かな浜辺で聞こえるのは波の音と、私の涙が流れる音だけ。
月明かりに照らされた私の影はいつもより薄く感じた。
タイムリミットはあと10時間。
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お久しぶりですいません。
wrote : 2006.9.23
UP : 2006.10.5